「ユニクロ対ZARA」ファストファッションの覇権を争う2社のサプライチェーン戦略
早速ですが、皆さんはユニクロとZARAの戦略の違いをご存じでしょうか。
ユニクロを展開する株式会社ファーストリテイリング(以下、ファストリ)のWebサイトにある「世界の主なアパレル製造小売業の時価総額ランキング」を見ると、2023年2月現在で、ZARAを手掛けるスペインのインディテックスが約13兆円で第一位、ファストリが8兆円を超えて第二位となっています。
今回は『ユニクロ対ZARA』という書籍を紹介しながら、この世界的なファストファッションブランドのサプライチェーン戦略について解説していきたいと思います。
1.サプライチェーン戦略を語るうえで欠かせない書籍『ユニクロ対ZARA』
2012年9月。私は日本ロジスティクス システム協会(通称 JILS=ジルスと読む)の「国際物流管理士 資格認定講座」に参加していました。
記念すべき一番最初の講義で東海大学(当時)の石原伸志先生がこう言いました。
「ユニクロとZARA、同じようなビジネスをしているように見えるが、2社の戦略はまったく違う。
ユニクロは、じっくり商品開発して良い商品をローコストで市場へ供給している。対するZARAは、市場で流行している服を高速でつくり高速で供給している」
当時、私は秋田港の海貨業者(乙仲)で働いており、日常的に外国と行き来する国際貨物や書類に触れて、いっぱしの国際物流マンになった気でいました。ただそれはサプライチェーンを構成する”物流”の”輸送”というパーツを見ていたに過ぎませんでした。
前述の石原先生のお話を聞いたとき「グローバルロジスティクスとはこういうことか!」と非常に感銘を受けたのを覚えています。
このユニクロとZARAの戦略の違いがわかりやすく書かれているのが、今回ご紹介する『ユニクロ対ZARA』です。
サプライチェーン戦略を語るうえで欠かせない内容となっていますので、ぜひお手に取ってご覧ください!
2.ユニクロのサプライチェーン戦略
(1)つくったものを売るユニクロ
ファストファッションというカテゴリを確立したのはZARAと言われています。トレンドファッションを手頃な価格で売るZARAに対して、ユニクロはフリースジャケット、ヒートテック、エアリズム、ウルトラライトダウンなど、流行に左右されない毎シーズン誰もが着ることができるベーシックカジュアルに品ぞろえを絞り込んだのが特徴的です。
”つくったものを売る”というと「プロダクトアウト」(作ってから売り方を考える手法)を思い浮かべる方も多いと思いますが、「LifeWear」という新たなマーケットを市場に提案する姿勢は「マーケットアウト」と言って差し支えないと思います。
(2)輸送はカートン単位でローコストを優先
前回のブログで「フィジカルインターネット」について触れましたが、ユニクロは以前から似たような取り組みをしています。
約70社ある取引先の中国、ベトナム、バングラデシュなど200内外の海外 委託工場で生産された商品は畳んでダンボールに梱包され、コンテナに積み込まれて海路で世界各国へ運ばれます。陸へ揚がったあとも、最もコスト の低い手段でそれぞれの店舗へ届けられていきます。
引用:齊藤孝浩. ユニクロ対ZARA (日本経済新聞出版)
(中略)
この流れのなかでユニクロの 最も特徴的なところは、ほとんどの商品のダンボール箱が、いったん閉じられてから店舗に届くまで、一切開かれないことです。
アパレルの国際物流において、最もコストがかかるのは国内物流加工、すなわち、輸入した商品を国内の物流倉庫に運んだあと、店舗ごとに品番・カラー・サイズ別に振り分けることです。
ユニクロではこの作業を国内で行わなくて済むようにするため、海外工場での箱詰めの段階ですでに品番ごとにカラー・サイズを組み合わせて梱包し、それをそのまま店舗に届けている のです。
店頭で売れた商品を国内倉庫から補充するときも、この「ダンボール単位」の配送は変わりません。
モノをひとつ送るよりも、段ボールにまとめて送った方が1個あたりの送料が下がることは頭でこそ理解できますが、それを確実に実行することは容易ではありません。ローコストにこだわったユニクロならではの取り組みと言えると思います。
(3)ユニクロ流!在庫切れを防ぐ三段構え
同書では、ユニクロの欠品防止対策として下記の3点を挙げています。
①売れた分だけ確実に補充する自動補充システム
②店舗の裁量による積み増し
③本部の在庫コントロール担当が商品が不足しないか目を光らせる
もちろん前提として、大局的な需要予測システムやロジスティクス担当者が優秀であることは絶対条件ですが、マーケティング施策として「配荷率を下げないこと」を重要視していることがよくわかりますね!
3.ZARAのサプライチェーン戦略
(1)売れるものをつくるZARA
”つくったものを売る”ユニクロに対して、ZARAは”売れるものをつくる”ことで知られています。
それまでのファッション流通は、デザイナーがつくりたいものをつくる(プロダクトアウト)が一般的でした。
一方、ZARAはマーケティングからスタートします。「店頭で顧客がほしいものがわかってからその需要に合わせてつくり足せばよい」という、まさにマーケットインの考え方です。
この”つくり足し”を高速で実行することがZARAの真骨頂と言えるでしょう。
(2)世界のどこでも48時間以内に届ける!スピードを優先するZARA
ZARAはスペインの倉庫から48時間以内に商品を届けられるインフラを構築し、いつでも新しい商品を店に並べるなど、最新トレンドを高速回転させることを実践しています。
世界のファッションの中心地・フランスの隣国スペイン。
引用:齊藤孝浩. ユニクロ対ZARA (日本経済新聞出版)
ZARAはその 地の利も活かして、トレンドファッションを世界最速でつくり、世界に届け て成功しました。
「ファッションは生もの」の考えのもと、最低限必要な 数しかつくらず、毎週新しい商品を投入するZARAにとって、物流はコストよりもスピードが重視される、ビジネスの肝です。
新商品を4週間で、追加商品を2週間でつくっても、店舗に届けるまでに1か月もかかっていたら 元も子もありません。
そのため、出荷してからヨーロッパ近隣諸国へはトラックで36 時間以内、それ以上かかる東欧やアメリカ、アジアなどへは48時間以内に、空輸で届けます。ZARAはたとえ航空運賃がかかっても、商品 を顧客が欲しいときにタイムリーに提供し、値下げをせずに売り切れれ ば、そのコストは十分吸収できると考えるのです。
(3)トヨタ生産方式
ZARAはトヨタ生産方式を導入しています。上記の高速サプライチェーンを支えているのが日本発のメソッドというのは非常に興味深いです。
トヨタ生産方式を導入しているメーカーはキヤノンやファーウェイを始め、世界中にいくつもある。だが、その考え方を自己流にアレンジして大成功したのはファストファッションのZARAだ。
引用:日経クロストレンド
創業者のアマンシオ・オルテガは1985年に持ち株会社のインディテックスを作り、ZARAのブランドでアパレル業に乗り出した。オルテガは新しいものに挑戦するタイプの男で、80年代の後半に、地元の大学教授をIT部長に登用し、また、トヨタにいた技術者を「ジャスト・イン・タイム」のコンサルタントとして招聘した。
その結果、ZARAは在庫品をなくすために、2週間単位で新商品を投入し、売り切れても増産をしないというビジネスモデルを作った。ファッションの業界はつねに在庫に苦しめられてきたから、それをなくすためにトヨタ生産方式を援用したのである。
以前のブログでも紹介しましたが、こちらも名著ですので、あわせてご覧ください。
輸送モードにローコストで比較的リードタイムの長い海上輸送(船舶輸送)を選択しているユニクロに対して、ZARAはリードタイムを短縮するために航空輸送を採用しています。もちろんコストは高くつきますが、時間を買うこと自体がZARAの戦略なのです。
この2社の業態は”製造小売業(SPA)”と言われますが、本日紹介した『ユニクロ対ZARA』ではこの2社のサプライチェーン戦略の違いを「小売業から成長して自社で製造するようになったユニクロ」と「製造業から成長して自社店舗を持つようになったZARA」という生い立ちによるものだとしているところが非常に興味深いです。
4.共通点
コーポレートステートメントである「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」のとおり、普遍的なベーシックウェアを開発し、市場に提案し続けるユニクロ。
顧客の反応をいち早くフィードバックすることで需要予測の精度を高め(ZARAのサプライチェーンは世界中の店舗で顧客の反応を見聞きするところから始まる)、高速で市場に投入するZARA。
この2社に共通していることは(ファストファッションなので当たり前ですが)比較的低価格であること、そして精度の高い需要予測モデルを用いてマーケティングを事業の起点にしていることだと思います。
企業のサプライチェーン部門は需要予測を判断の起点にして動くべきだと私は考えています。
”マーケティング戦略なくしてサプライチェーン戦略なし”
今回の執筆を通じて、
”企業のサプライチェーン戦略はマーケティング戦略を遂行するための一部であり、ビジネスの肝であること”
を再認識することができました。
5.最後に
さて、今回は私がおすすめする書籍『ユニクロ対ZARA』の内容を中心にファストファッションブランドのサプライチェーン戦略について解説しましたいかがでしたでしょうか。
サプライチェーンを構築するうえで少しでも課題をお持ちの方はぜひ、こちらのページからお気軽にお問い合わせください!